野球の試合を観て、こんなに熱くなったことが、かつてあっただろうか。
もちろんWBCの話。
僕も小学生の頃は一応野球少年で、放課後や学校が休みのときは、友達と暗くなるまでボールを追いかけたものだ。その時のポジションはファーストで、5年生の時に初めて買ってもらったグローブはファーストミットだった。
当時のヒーローは王、長島。もちろん巨人ファンだった。
その頃友達には、野球にやたら詳しいのがいた。彼は巨人の2軍選手の背番号まで覚えていていたな。
その頃流行っていたのが、野球カードだ。カード付きの袋入りのお菓子を、お菓子は食べずにカードだけ集めているヤツもいたなー。アー懐かしい。
中学に進み、バレー部に入ってからは、それほど野球をしなくなったが、それでも隣に住んでいた自営業の従兄とよくキャッチボールをした。テレビでは、毎日のように巨人戦の中継があり、よく観たものだ。
高校では担任が虎キチ(阪神ファン)で、阪神が負けた次の日は機嫌が悪く、みんななるべく近づかないようにしていたっけ。
社会人になってからは、よく早起き野球の試合にも行った。
それが、ある時期から全く野球とは縁がなくなってしまった。縁がなくなったと言うより、興味が無くなったと言うべきかもしれない。
サッカーのプロリーグが始まり、ワールドカップで一気にサッカー人気に火がついた。それからはバレーやバスケットなど、日本でもプロスポーツが次々と誕生して、プロスポーツ=野球という構図が崩れ、最近では巨人戦のテレビ視聴率の低迷が、試合の結果よりも大きく取り上げられるようになってしまった。
野球人気の低迷には、様々な原因があるだろう。
とうの昔に巨人ファンはやめてしまったが、自分のチームのことしか考えない経営陣の身勝手さは、プロ野球界にとっては不幸なことだ。
高校野球、春夏連覇の駒大苫小牧高校の不祥事への、協会の対応も、とても納得できない。それ以前に、プロとアマが半世紀もいがみ合っているということ自体、正常なことではないだろう。
そんなこんなで去年まで、日本の野球界は寂しい話題が多かったし、ほとんど野球への興味を失っていたのだ。
それがどうだろう。今回のWBCの日本チームの活躍で、野球の面白さを再確認した、かつての野球少年たちは多かったはずだ。
だいたい日本程、子供頃から野球に親しんでいる人が多い国は、世界中でも少ないと思う。僕の年代の人はほとんど、誰でも一度はグローブをはめてキャッチボールをしたことがあるはずだ。そんな国は、極端な話、日本とキューバくらいかもしれない。
メキシコにいた時、ボールが上手く投げられない子供が沢山いて、びっくりしたことがある。日本人は、小さい頃からキャッチボールをしているので、ボールを投げる動作は自然に身に付くと思っているが、あれも練習しなければ出来ないということを思い知らされた。
物心付く頃には、ボールを投げることが自然に出来るようになっている。それほど日本では、野球が浸透しているということなのだ。
その日本人の野球魂が、19日の準決勝・韓国戦と、21日の決勝・キューバ戦で、一気に目を覚ましてしまった。
しかしその興奮も、予選でメキシコがアメリカに勝たなければ、そもそも無かったことなのだ。スポーツの世界にタラレバは禁物だが、それにしても今回は、そうした予選からのハラハラドキドキ感も加わって、2倍3倍のスリルと興奮で、決勝ラウンドを見ることが出来た。
試合の後、今回参加しなかったメジャーの選手達に対する批判を耳にするが、それは違うだろう。日本は、予選のメキシコの勝利で、辛うじて決勝に進むことが出来たという事を忘れてはいけない。日本としては、予選の韓国戦敗退の時点で、もう終わっていたのだ。
決勝のキューバ戦。9回表の日本の攻撃、川崎がホームでのクロスプレーで怪我をしていたそうだ。優勝したからこそ、巧みなスライディングで1点取った川崎はヒーロー扱いだが、もしあの後、試合がひっくり返って日本が負けていれば、川崎は何と言われていただろうか。何しろこれから日本で、プロとしては本番のペナンとレースが待っているのだ。川崎のプレーは無謀だったと言われたに違いない。
周りの評価なんて、所詮そんなものなのだ。評価する人は皆、結果を見て評価しているだけだ。批判するなら、結果が出る前に言うべきだろう。
とにかく日本代表はよくやった。
久しぶりに凄い野球の試合を見て、無性に誰かとキャッチボールがしたくなった。