7月13日(日曜日)東京で行われた左官講習会に参加してきた。今回は、壁を塗ったり土をこねたりする以前の「道具作り」がテーマ。題して『チリ箒と墨壷作り講習会』。
チリ箒というのは、壁を塗った時に柱や梁などの際をきれいにする刷毛のようなもの。市販のモノもあるがなかなか使いやすいものがなく、以前から自分で作れないかなと思っていた。
先月参加した左官の講習会でもそのチリ箒の話題が出てきたが、やはりレベルの高い仕事をする人の道具を拝見すると、チリ箒が手製でとても使いやすそうな印象だった。
左官的塾のHPから、ススキのチリ箒の作り方がDLできるのだが、それを読んだだけではどうして理解できない部分がある。やはり実際作るのを見てみないことには、そして出来れば作り方を教わりたい、そう思っていたところにこの講習会を知り参加を決めたわけだ。
今回の参加者は30人ほど。やはり若い職人さんが多く、前回の篠山での講習会で見かけた人も何人かいた。
今回のチリ箒は、シュロを使って作る。シュロというのはヤシの仲間で暖かい地方に生える植物だ。今住んでいるこの辺り(長野県)ではまず見かけない。この辺りだとススキやカヤを使うのが良いようだが、シュロでの作り方を覚えればススキやカヤにも応用できるだろう。
先ずシュロの原木から、周りの網状の部分を剥ぎ取る。ゴミなどを取り除き綺麗にしてから、手でそぎながら繊維をまとめ束にしていく。それを千枚通しですきながら、繊維の向きと長さをを整える。その作業を繰り返し、片手で握れるくらいにまとめれば、1つ分のチリ箒の材料になる。
講師の方が持ってこられたシュロの繊維の束。実施やってみて、これだけ綺麗にまとめるのは大変だと実感する。
飛び入り講師のような形で、左官の大先輩、榎本新吉さんが来られ直接指導してくださった。御年80歳。初対面で恐縮ながら、口は悪いが仕事は上等、江戸っ子の典型のような方とお見受けした。いくつも良い仕事をされたんだろうな。「チリ箒も作れないやつは左官屋じゃねー」という言葉には、重みがあった。
そんな大先輩が、若い者に道具の作り方から教えてくれる。左官講習会ってすごい!道具を作る榎本さんの手際の良さには、正直驚いた。
午後からは墨壷作り。左官用の墨壷は大工のモノとはちょっと違う。少し小さめで、糸が出る部分に細い管が取り付けてある。墨の色も大工は黒、左官のは朱というのが本来のようだ。
僕の本職は大工だが、恥ずかしい話、普段使っている墨壷は金物屋で売っているプラスチック製のものだ。中にバネが入っていて、糸を自動的に巻きあげてくれるのでとても便利なのだ。「そんな墨壷を使っているやつは本物の大工じゃねー」と親方に叱られそうだが、今のご時世、大工の世界でも自分の作った墨壷を使っている人はそんなに多くはないと思う。自分としては、墨壷はもちろんノコの目立てやカンナの仕込みくらいは自分でやらなければと思っている。でも今はそれがなかなか難しいのだ。
さて、左官の墨壷。少し小さめで、その上材料もよい大きさに用意してくれたおかげで、自分としては意外と簡単に出来た印象を持った(何しろそっちが本職なのだ)。といっても、糸車やハンドルなどの付属品まで自分で作ったり探したりするとなると結構大変かもしれない。
糸を通す穴をあけようとしていた時、榎本さんに「こっちに来い」と呼ばれ、墨を入れる部分から外に墨が出ないように少し角度を付けて穴をあけることを教わった。「全て意味があるんだから、何も考えずにやったらだめだぞ」とのお言葉。いやー嬉しかったです。勉強になりました。
で、出来た墨壷はこちら。参加者の中で一番早く完成した(当たりやろ、と突っ込まれそうだな)。
完成したチリ箒。使いやすさはともかく、初めてにしてはまずまずの出来だと思う。
あとはこれを、いかに使いやすいレベルにしていくか。とにかくいくつも作ることが肝心だ。秋になったらススキのチリ箒作りに挑戦しよう。
今回左官の道具を自作する事で、普段使う道具は自分で作れるものが結構あるんだということを体験できた事は大きな収穫だった。順番は逆になったが、今度は身近な大工道具をもっと自分で作ってみようと思っている。
左官の講習会、参加する度に新鮮な発見がある。