「深夜特急」

先日、仕事帰りに本屋に寄った際、新刊のコーナーに見覚えのある装填の本が並んでいるのが目に入った。
『旅する力』沢木耕太郎著。サブタイトルには「深夜特急ノート」。帯には「深夜特急〈最終便〉ついに刊行!」と書かれている。
先ずは手に取り、次の瞬間、思わずレジに向かっていた。

沢木耕太郎氏の『深夜特急』に出会ったのは、もう15年以上前になるだろうか。その時は文庫本で読んだので、初版が出されてからかなり時間が経っていたはずだ。
雑誌の特集などでよく、著名人が影響を受けた本などといって、何冊か挙げているものがあるが、もし僕がそういう本を挙げるとしたら、間違いなくこの本が入っていると思う。

話は変わるが、以前、少しだけワインに凝っていた事がある。
ボルドーの4大シャトーなど、有名どころには高すぎてとても手が出なかったが、ワインブームのその頃は、輸入物の安くておいしいワインというのが結構あって、それを探し出すのが楽しみだったりした。
個人的には、スペインのリオハのものに当たりが多かったように思う。
それはさて置き‥‥

ビールの良し悪しというのは、最初の一杯で決まると思うが、ワインの良し悪しは難しい。
最初の一口で判断できるほどの舌や、ワインに対する知識を持っているわけでもなく、とにかく安いワインを買って飲み、これは美味いとか、渋いとか、どんな料理に合いそうとか、自分なりの判断でただ楽しんでいただけ。
それでも時々、これはというワインに出会って、それからしばらくはそのワインばかり飲んでいるというようなこともあった。
そんなことを繰り返しているうちに、自分の中で美味いワインと不味いワインとの見分け方の一つの基準が出来たのだ。
それはとても簡単なことだった。
ボトルを買って、すぐ無くなるのは美味しいワイン。いつまでも無くならないのは不味いワイン。
これは日本酒にも、焼酎にも当てはまると思う。ウイスキーやブランデーにも当てはまるかもしれない。

そして、ある日気がついたのだ。同じことが本にも言えると。
『深夜特急』を最初に読んだ時、ほとんど時間が経過しているという感覚の無いまま、一気に読んでしまった。そんな本はめったに無かった。

『旅する力』を読んでから、すぐに近くの図書館に行った。かつて読んだ『深夜特急』が、無性に読みたくなったのだ。以前持っていた『深夜特急』の文庫本は、とっくの昔に海外の友人のところに送ってしまっていて手元には無かったのだ。
図書館に行くと、単行本が3冊きれいに並んでいた。
それを借りてきて一気に読んだ。この本を読むのは3回目だが、その内容は、以前にも増して深く心の中に入ってきた。
それは『旅する力』という、「最終便」を読んだ後だったからだろうか。
いやそれ以上に、今の自分が、現実的にもうそういう旅が出来ないということを理解しているからこそ、余計に強く惹かれるのかも知れない。

美味しいワインに出会って、ボトルの中のワインがだんだん少なくなっていくのが惜しいように、今回『深夜特急』を読んで、残りのページが少なくなってくるのが残念で仕方なかった。
そしてそれは筆者が、旅の終わりをなかなか決断できない部分と重なって、切ないくらいにこちらに迫ってきた。

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